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「もう1つの野球界」の行方(後篇)

 日本が女子野球の世界において覇権を手にできているのは、単に代表チームの完成度が素晴らしく高いということだけが理由ではない。他国と比べた時の最大のアドバンテージは、やはり確立されたプロリーグが存在するということだろう。最大のライバルと言えるアメリカですら、調べた限り女子プロ野球リーグは残念ながら現存しない(かつては複数のリーグが立ち上がっては消えていったようだが)。つまり、女子がプロ野球選手になれる環境というのは2018年現在、世界広しといえども我が国にしかないということだ。この絶対的アドバンテージを生かさないわけにはいかない。

 男子野球の世界では、言うまでもなく世界最高峰はMLBを擁するアメリカとカナダだ。もちろん、女子と比べればプロ野球リーグは各国において広く定着こそしているものの、それでも独自に予算を組んで新興国にアカデミーや球場を建設し、新たな選手供給源を生み出し続けているMLBに太刀打ちできる組織は存在しないし、おそらく今後も当分は出現することはないだろう。残念ながら、MLBに続く世界第2位のプロ野球リーグと言えるNPBでさえも、彼らと肩を並べる存在とまでは呼べない。

 そして女子野球界におけるJWBLの立ち位置も、ある種これと似たところがあると言えるだろう。もちろんこれはあくまでも相対的な話であって、JWBLがMLBと全く同じような剛腕ぶりを発揮して、国際的に女子野球を広めていく活動を手掛けられるとまでは流石に思わない。だが、競技環境的にも実力的にも女王と呼んで差し支えない地位に今の日本はいるのだ。ならばこの優位を生かして、「日本を女子野球界のハブ(拠点、中枢)として確立していく」ための事業展開というのは検討する価値はあるのではないだろうか。

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(©Simone Amaduzzi)

 一つの案として挙げられるのが、日本行きを志す外国人選手を対象とする国際トライアウトの実施だ。現在、日本で女子プロ野球選手として活動するためにはトライアウトに合格することが必要だが、これの開催地を徐々に国内だけではなく海外にも広げていく。JWBL側にとっては、準備の段階で海外の関係者とのパイプを深化させることにつながるし、受験者側はプロ入りまでにかかる各種コスト(往復の航空券代や宿泊費など)を節約できる。既に、こうした国際トライアウトは男子の独立リーグでは行われており、2014年にはSan Diego Sports Authority社が地元サンディエゴで開催するに至っている。

 こうした先行事例は、国内では新興の組織同士積極的に情報共有を進めて、自身にも取り入れていくべきだ。もちろん、国内トライアウトにおいて外国人選手の受験を制限することは、たとえ国際トライアウトが実現したとしても必要はないだろう。実際に合格できるか否かは本人の才能と努力次第、挑戦を希望する者に対してはあくまでも間口は広く開けておく、というのが健全なありかたであると考える。女子プロ野球選手は男子と違って個人事業主ではない(株式会社わかさ生活の正社員という立ち位置)為、雇用するにあたっての細かな部分での調整は当然必要となるだろうが、既に外国人選手そのものは在籍歴があるので、大きな障害にはならないと言えるのではないだろうか。

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(©Simone Amaduzzi)

 だがいくら間口を広くとったからと言って、挑戦しに来る選手たちがJWBLの求めるプレー水準に達しない者ばかりであるなら、それは骨折り損のくたびれ儲けと言える。最も大事なのはやはり各国の底上げであり、女子野球そのものの競技レベルの向上だ。前篇からの繰り返しになるが、女子日本代表のW杯26連勝は言うまでもなく素晴らしい記録だ。それがもし、より多くの国に優勝のチャンスがあると呼べるくらい熾烈な競争の中で成し遂げられたものであるなら、その価値はより高まるというものだろう。そしてそれを支えるのは、やはり各国に存在する女子野球界の力だと言える。新興国への普及や交流を積極的に推し進め、女子野球界のリーダーとしての務めを果たしていくことも重要だ。

 例えば、今回のW杯に欧州勢として唯一参戦しているオランダ。男子球界でも既に欧州王者としての地位を揺るぎないものにしているが、この国と手を組んで女子野球の普及活動をともに進めていくことは、1つの選択肢として検討してもいいのではないだろうか。オランダは非英語圏の中でも英語の通用度が極めて高く、実務レベルに英語が話せる人材がいれば言葉で苦労することはない。既に国内では野球をプレーする環境がある程度整っているので、高い金を払って一から球場を立ち上げる必要もない。欧州の中では治安もかなり安定していてアジア人差別とも無縁、むしろ日本の野球人に対する期待度は物凄く高い国だ。日本がイニシアチブをとって野球普及のための活動をやりたいと言えば、大喜びで受け入れてくれる国の1つだと断言できる。

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(©Simone Amaduzzi)

 1つのアイデアとしては、日本からチームを現地に派遣してオランダ代表との親善試合を開催したり、野球教室を開いたりというPR活動を現地で行うというものがある(実は、フランスで男子の日本代表チームを招いて類似の企画をやりたいという声が上がっているが、もしかしたら女子代表をオランダに送る方が早く実現するかもしれない)。もちろんプロアマ混合の日本代表では、アマ側が社業や学業などの都合で渡欧できない可能性もあるので、ここはプロであるJWBLが全面的に前に出るべきだろう。オランダではかつて、現役大リーガーを招いての野球教室「ヨーロッパビッグリーグツアー」が開催されていたことがある。こうしたノウハウは是非遺産として活用すべきだ。

 こうした交流を続けていく中で、優れた才能の供給地を少しずつ確保していくことが日本にとっては重要だ。野球教室にたまたま参加したオランダの少女が、いつか成長してJWBLにおけるトップスターの1人となるかもしれない。その可能性を排除すべきではない。もし彼女が結果的に日本でプロにならなかったとしても、W杯で日本の前に立ちはだかるような選手に彼女が成長すれば、その存在は日本代表の選手たちにとっても、さらなる成長のためのモチベーションになる。お互いがより成長すれば、その分女子野球界は大きく活性化する。どちらに転んでも、女子野球の未来にとっては何も悪いことはないのだ。

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(©Simone Amaduzzi)

 忘れてはならないのは、こと欧州においては「女子ソフトボール界と敵対してはならない」ということだろう。特に野手のリクルートに関しては、女子野球と女子ソフトは必然的に真っ向から対立する存在になる。だが、大事なのは政治的な駆け引きなどではなく、あくまでも「選手が自らの意思でどちらを選ぶか、どちらのスポーツを好きになるか」だ。ある選手が自分の意志で「ソフトボールをやりたい」と決断したなら、それはそれでもちろん何も問題はない。野球人として大いに応援すべきである。だが、「本当は私も野球をやりたいのに、その選択肢がないから仕方なくソフトボールを選んだ」というなら、それはスポーツの在り方として健全ではないはずだ。

 大事なのは、野球とソフトどちらがスポーツとして優れているかということではない。「両方ある」ことこそ大事なのだ。もちろん、現状では女子ソフトのみが五輪種目であるという歪な状況である以上、両競技間の相互通行の道だって残しておくべきだろう。野球とソフトボールの協働は、今や世界レベルで進んでいる重要なムーブメントだ。それは異なる種目を志す同性同士であっても、同じことであるはずだと信じたい。

 男子野球においてもそうであるように、スポーツの世界的普及というのはもちろん口で言うほど簡単な作業ではない。実際に手掛けるとなれば多くの資金と時間が必要になるだろうし、多くの人を巻き込むことも欠かせないだろう(もちろん、その末席に我々NO BORDERZ BASEBALLも加えてもらえるなら光栄なことだ。いつでもご連絡お待ちしております)。だがそれでも、1人でも愛好者がいるならそれは見過ごしてはならない。たとえどこの国の人間であろうとも、同じスポーツを愛する仲間であることに変わりはないのだから。名実ともに女子野球界のリーダーである我が国が、世界の仲間と手を取り合ってともに前に進んでいけるかどうか、それこそが「もう1つの野球界の行方」を大きく左右するのである。

注・本投稿で使用している画像の諸権利は、撮影者であるシモーネ・アマドゥッツィ氏及びプロスポーツ・ビジュアルズ社に帰属します。無断転載等の侵害行為を禁じます。また、ブログ投稿の都合上実際よりも解像度を落とした画像を使用しております。




筆者紹介
田中亮多
NO BORDERZ BASEBALL代表。
1988年1月10日生まれ、千葉県出身。
幼少期に5年と3か月間にわたるイギリス・クロイドンでの生活を経験する。
帰国後の2009年に行われた第2回WBCにて、オランダ代表が優勝候補と謳われたドミニカ共和国代表に2連勝したことに衝撃を受けたことをきっかけに、ブログ「欧州野球狂の詩」を開設。
2016年に前身となる団体「グローバルベースボール」を旗揚げしその代表に就任、選手移籍支援など国際野球発展のための様々な活動に携わる。NPO法人国際野球支援団体ベースボールブリッジ前代表。

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「もう1つの野球界」の行方(前篇)

 「男と男のスポーツ」

 いつどこで誰がそう言い出したかはともかく、日本には野球をこのように評する言葉がある。そしてその是非は置くにしても、この言葉は確かに少なくともある一定の時代においては正しいものとして認知され、受け入れられてきたことは事実だろう。

 だが西暦2018年の今、そのセリフを大っぴらに口にすることは最早時代遅れと言ってもいいかもしれない。野球は既に、我々男の専有物などではなくなっている。「見るスポーツ」としてはもちろん、「するスポーツ」としてもだ。2009年の日本女子プロ野球機構(JWBL)誕生を直接的なきっかけとして、それまでも細々とではありながらも存続し続けてきた日本女子野球のコミュニティは、加速度的に拡大と発展を遂げるようになった。

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(©Simone Amaduzzi)

 各地の高校には続々と女子硬式野球部が誕生し、男子球界では管轄の違いから今なお実現していない「野球版皇后杯(プロアマ混合による日本一決定戦)」もスタート。頂点をなすJWBLは現在4チームを傘下に抱え、かつては関西一極集中だったのが関東や東北にも球団を持つようになっている。また女子野球を題材とするコンテンツも増え、漫画「花鈴のマウンド」やスマホゲーム「八月のシンデレラナイン」など、広く社会的な知名度を持つ作品も出てきた。

 そして、女子野球の隆盛は何も日本国内に限った話ではない。少しずつではあるが、世界にもその波は広がりつつあるのだ。現在、アメリカ・フロリダ州で開催されている第8回WBSC女子ワールドカップは、まさにその象徴的なイベントと言えるだろう。この大会では、日本代表は第3回大会から前回の7回大会まで5連覇を達成し、27日のオーストラリア戦での勝利で大会における連勝記録を26にまで伸ばしている。もちろん、それ自体も大いに称賛に値するものであることは言うまでもないが、この女子W杯における注目すべき点は決してそこだけではない。

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(©Simone Amaduzzi)

 第7回からの大きな変更点として挙げられるのが、参加国枠の増加だ。それまで8チームで争われていたのが、この措置によって前回からは参加国が12に増えた。今大会には、ドミニカ共和国とプエルトリコが初めて参戦。男子では言わずと知れた世界的強豪国であるこの両者だが、女子野球界ではまだまだ新参者に過ぎない。そんな両国は、既に一次ラウンドでは複数の白星をマークしている(プエルトリコは台湾、オランダ、韓国に勝利。ドミニカはオーストラリアと香港を破っている)。WBSCからすれば、この両国の健闘は何よりも嬉しいニュースと言えるかもしれない。

 いかなるスポーツにとっても、重要なのは「新しく競技を志す者にとっての選択肢の1つたること」だ。学生時代に部活動の合同勧誘会を見たことがある人なら、それが何を意味するかはイメージしやすいかもしれない。結果的に各個人がどれを選ぶかは別として、魅力的な選択肢の1つとしてのコミュニティを構築すること。そしてもしも実際にアスリートたちに選ばれた際には、彼ら・彼女らがその選択を悔いることなく、競技に打ち込み続けられるような環境を維持し続けること。今までは残念ながら日陰者であり続けてきた女子野球界が、少しずつではあれより多くの国でそれを実現できるようになり始めているのなら、それは大いに喜ばしいことだ。

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(©Simone Amaduzzi)

 ただ、もちろん現在の女子野球界が競技者の目から見ても理想的な状況にあるか、といえばそれはNOだろう。女子野球はそもそも非五輪種目ということもあり、まともにプレーしている国の数自体がまだまだ少ない。通称「マドンナジャパン」のW杯26連勝はとてつもない偉業であることは確かだが、裏を返せば競技としての選手層が薄いということでもある。現在WBSCに加盟しているのは122か国に上るが、ランキングの算出に必要なポイントを獲得できている国は、女子野球カテゴリーでは2018年8月現在でまだ12しかない。前述のドミニカとプエルトリコは、これまでポイントが一切記録されていなかった110か国のうちの2か国なのだ。

 国際大会が事実上W杯一択という事情もあってか、ポイントを保有している国の間でも実力的な格差は大きい。現在世界ランキング首位の日本が2000ポイントを獲得しているのに対し、最も少ない12位のパキスタンはたった100ポイント。4桁以上のポイントを保有している国は男子の15か国に対し、女子では日本、カナダ、アメリカ、オーストラリアの4か国しかない。男子では強豪国として認知されている国でも、女子ではまだまだ発展途上な国が多いのは間違いなく、この4強を脅かす国が現れるまでにはいましばらく時間がかかるだろう。

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(©Simone Amaduzzi)

 そしてもう1つの課題が、何よりも五輪種目である女子ソフトボールとのすみ分けと共存だ。野球とソフトボールは往々にして対の関係で語られることが多く、それが冒頭の言葉の1つの根拠にもなっているわけだが、この両者は兄妹関係にはあれどあくまでも別のスポーツであることを忘れてはならない。いくら両者が同じロマンス語に属し、発祥国同士の物理的距離も近く、会話した時の音韻構造や語句だって似ている(そして、実は工夫次第ではお互いにある程度通じ合えてしまう)からと言って、イタリア語をスペイン語の一方言として認識する人は普通いないはずだ。同じように、野球とソフトボールは基本的な構造こそ同じくしていても技術面やルールの一部に大きな相違がある。女子野球と女子ソフトボールは、原則的には違う枠組みとして認識されるべきだ。

 だが実際には、そのゲームの構造が基本的に同一であるがゆえに女子野球と女子ソフトは競合関係となることが多い。そしてたいていの場合、前述のとおり五輪では実施されない野球の方が圧倒的に劣勢である。例えば、今回のW杯には欧州から唯一オランダが参戦しているが、そもそも女子野球文化がまともに存在するのはかの国だけであり、そしてオランダにおいてさえ女子野球はまだ始まったばかりのスポーツに過ぎない。何故なら、欧州では既に「男子は野球、女子はソフトボール」というすみ分けが完全に確立されてしまっていて、女子野球のコミュニティ自体がそもそも成り立っていないからだ。フランスからはメリッサ・メイユーという優れた才能が輩出されたが、あれはまさに例外中の例外とも呼ぶべきものである。

 そして現在の絶対的女王たる日本でも、状況が好転してきているとはいえ男子野球と比べればまだまだ、相対的な地位は高いとは言えないだろう。同じ日本のプロ野球、そして我が国野球界の最高峰に位置するリーグ同士でありながら、NPBとJWBLはスポーツ報道という面でも完全に同格と呼ぶには程遠い。世界一の女子野球大国にあってさえも、越えなければならない課題は少なからず存在するのだ。では、このような女子野球界の現状をより良いものにしていくためには、どんな取り組みが必要だろうか。それは後篇で詳しく触れることとしたい。

注・本投稿で使用している画像の諸権利は、撮影者であるシモーネ・アマドゥッツィ氏及びプロスポーツ・ビジュアルズ社に帰属します。無断転載等の侵害行為を禁じます。また、ブログ投稿の都合上実際よりも解像度を落とした画像を使用しております。
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Author:no_borderz_baseball
私たちNO BORDERZ BASEBALLは、「野球を世界的に盛り上げる」為に何が必要かをそれぞれが考え、行動する者たちの集まりです。

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